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地域連携ニュース
2023年6月23日
見えないところに問題の本質がある ~平野研究室を訪問して~
大久保先生が本学の学生が行っている魅力的な活動を紹介する「大久保先生の学生探訪」。今回は番外編として,生理心理学を専門とする教育学部の平野先生の研究室を訪問しました。取材はおなじみの大久保先生と学務課の織田さん(九州出身で「ラーメンは豚骨しか認めんたい!」という頑固者です)が行いました。
平野先生の最近の研究は「自閉スペクトラム症における入眠困難の生理心理学的検討と生活リズム改善支援」です。睡眠のメカニズムや睡眠困難にかかる支援の在り方,さらに心理学を学ぶ意味などを紹介していきたいと思います。
大久保:
まず,生理心理学ってどのような学びかを教えてください。
平野先生:
生理心理学は私たちの「こころ」と身体(主に脳機能)と行動の関係を追究し,教育や保育の実践に社会生物的な根拠を提供する学問です。大久保先生は日頃,よく眠れていますか?寝つきはいいですか?
大久保:
はい。毎晩お酒を飲んでますから,あっという間に寝ています。でも,すぐに起きてしまい,その後眠れなくなるんで困っています。
平野先生:
リバウンドが起きているんですね。急激な変化があると体はもとに戻ろうとします。すぐに眠ったということは,覚醒しようとする反応も起こるんです。実は入眠は質のよい睡眠をもたらすのにとても重要で,私は脳波を測定し入眠が睡眠にどのように影響するかを研究しています。睡眠に限らず目には見えない脳を含む身体やこころの機能は人間の行動を支え,これらは密接に関係しています。
織田:
すぐに眠れるのはいいことだと思っていましたが,奥が深いですね。ところで,自閉スペクトラム症との関係はどのようなことですか。
平野先生:
今,私は光のある明るい環境でみなさんと楽しく会話をし,活動的でよい気分になっています。このようなとき,セロトニンというホルモンが分泌されています。この物質は夜になると別のホルモンの生成を助けて,睡眠によい影響を与えます。自閉スペクトラム症のある子どもは,こだわりが強い,コミュニケーションが苦手などの理由から,人付き合いで強いストレスを感じることがあります。そして一部の人では,セロトニンの分泌が抑制され,ストレスも解消されにくいことや,睡眠が苦手な自閉スペクトラム症児がとても多いことが分かっています。生理面でも心理面でも夜の睡眠と日中の活動との悪循環に着目して,生活全体を改善する視点を持った支援が必要なのですが,まだまだ研究途上のことばかりです。
大久保:
先生,自閉スペクトラム症の子どもだけでなく我々も,ストレスが溜まって眠れない,ということは当たり前にありますよ。
平野先生:
そうそう,これらの子どもが特別ではないんですね。なのでスペクトラム(障害の境界が明確でないという意味)という名称がついているんですよ。
織田:
このような発達上の課題を持つ子どもたちにはどのような支援が必要ですか。
平野先生:
睡眠も見えないことの一つですが,大事なことは,見えないところに問題の本質があるということです。例えば,「目を見て聞くこと」ができない子どもがいます。相手の目をみることが怖くて不安,落ち着かないから下を向く。そのような姿勢をとることで,むしろ目を見るよりも,頭の中では聞いたことをしっかりと考えることができる子どもがいるわけです。その時に教師が「なんでまじめに聞かないの?」「私のことが嫌いなの?」と捉えず,子どもの行動から心や身体の見えない原因を想像することが必要です。そのために,知識や技術を土台として身につけた上で,とにかく子どもを観察し,言葉に耳を傾けること,そして見えていない部分があることを認めること。当座の答えは子どもが教えてくれます。学校内外と連携して,みんなで解決しようとする姿勢も大切です。
大久保:
なるほど・・。なんで教育の中で心理学を学ぶのか?その意味がわかったような気がします。ありがとうございました。
研究室を退室したあと,
大久保:
今日はいい話を聞いたなー。何とか・・というホルモンが出て,よく眠れそうじゃ。
織田:
セロトニンですよ。忘れないうちに探訪の記事,仕上げといてくださいよ。
大久保:
わっ,ストレス!!