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地域連携ニュース
2023年7月27日
大久保先生が本学の学生が行っている魅力的な活動を紹介する「大久保先生の学生探訪」。今回も番外編として,都市経営学部の宮前良平先生の研究室を訪問しました。
大久保
宮前先生のご専門は社会心理学の一分野のグループ・ダイナミックスですよね。"集団力学"と書いてあったりもしますが,先生はどのような研究をされているのですか?
宮前先生
ある集団がどういった特徴を持っているのかを調査しようとしたときに,集団のメンバー一人ひとりを調査しても,集団のことは分からないのではないかというのが私の基本姿勢です。つまり,個人の集合が集団なのではない。一人ひとりは素直でいい子なのに,クラスという集団になると「モンスター」のように見えてしまうということがありますよね。集団を知るためには,個人に還元するのではなく,集団そのものの空気を感じとることが大切です。そして,その集団に特有の歴史や文化など言葉にしようとするとうまく言葉にできないものをなんとか言語化していくことが私の研究の中心です。でも,こういうことをしようとするとまずはその集団に入り込むことが必要になるんです。
大久保
ほ~......?もう少し具体的にお願いできますか?
宮前先生
愛媛県の西予市に野村町という山間のまちがあります。2018年の西日本豪雨災害ではダムの「緊急放流」により5人の尊い命が犠牲になったところです。野村町には造り酒屋「緒方酒造」があり,「緒方洪庵」という銘酒を造っていましたが,この災害で酒蔵も被害を受けてしまい,酒造りを断念しました。そのことを知った大阪大学を中心とする有志が銘酒「緒方洪庵」を新生させるプロジェクトを立ち上げたんです。クラウドファンディングで330万円の資金を集め,兵庫県にある此の友酒造さんに頼んで銘酒を復活させました。それがこの青い瓶のお酒です。
大久保
へー,これが・・。「緒方洪庵」って,あの適塾の緒方洪庵ですよね。緒方酒造は緒方洪庵と関係あるんですか?
宮前先生
緒方酒造の緒方家は緒方洪庵の遠戚になります。災害後にまちに入ってきたボランティアが仲立ちをする形で,地元の人たちも緒方家と深く関わるようになっていきました。野村町には"サシアイ※"という酒の返杯文化があり,もともと酒好きな人たちが多いので,緒方酒造は地元の人にとって精神的な拠り所だったんですね。銘酒「緒方洪庵」を復活させるという話になったときには,このことを通じてまちの復興をしていこうという地元の人やボランティアの人の間に共通の目的が生まれていったわけです。今は緒方酒造の酒蔵が文化施設として生まれ変わり,2か月に1回程度,講演会などのイベントを開催し地元の人たちも多く参加をしています。このように集団に新たな目標が生まれ,変化が起こっていく。私は野村町に足を運び,できるだけ地元の人の考えに触れ思いを寄せることで集団を知ろうとしています。生活空間の中で起こっている自然な変化はフィールドに出てみないとわからないですから・・。
※サシアイ:野村町で親しまれる酒の飲み方。一つのグラスでビールや清酒を交互に飲み干して親睦を深める。
織田
先生は,東日本大震災の被災地にもボランティアに行っておられますね。被災地でのボランティアと研究との関係って何ですか?
宮前先生
今述べたように,私の研究はフィールドに出て人と関わることから始まります。関わる以上はベタメントにつながるような実践が大事です。それにはボランティアが最適で,復興のお手伝いをさせていただき関係を深める中で,その副産物として研究論文が生まれていくという感じです。岩手県の野田村のみなさんとは,写真返却お茶会という活動で関係をもたせてもらっています。津波で流された写真が返ってくるということは,自分の過去が返ってくるということなんです。生きてきた証しですよね。
織田
被災された人にとって,写真を見ると辛いことのほうが多いんじゃないかな?
宮前先生
被災した人の涙に向き合うとき,その辛さを一緒に分け持たせてもらっていると感じることがあります。こうして関係をつくっていくわけですが,これってものごとを理解するときの根本だと思っています。
織田
先生が研究で大事にされていること,フィールドに出るってことの意味が少しわかりました。
大久保
そうか。我々の取材もフィールドに出てなんぼですよね。野村町に行ってみようや,織田君。
織田
いいですけど・・。日本酒が飲みたいだけじゃないですか?
宮前先生
「緒方洪庵」,おいしいお酒ですよ。現地に行かなくてもネットで買えます。これを飲んでいただければ野村町の復興支援になりますよ!
大久保
いやっ,現地でサシアイしてみたいじゃない。副産物が取材といったところでしょうか。よし,野村町にいくぞ!宮前先生,ありがとうございました。
織田
やっぱり,飲みたいだけみたい。