University General Information
学長の式辞
(実施:2022年4月4日)
福山市立大学に入学された、教育学部105人と都市経営学部159人、教育学研究科4人と都市経営学研究科1人、計269人のみなさん、おめでとうございます。
また、これまでみなさんを支えてこられましたご家族をはじめ関係者の方々に、お祝い申し上げます。
本日はたいへんご多忙な中、福山市長 枝広直幹様にご臨席を賜り、心より御礼申し上げます。
福山市立大学は、2011年に全国で81番目の公立大学として誕生しました。大学を設立した福山市は面積518.14㎢、人口462,490人(2022年2月末現在)の中核市で、全国有数の企業が多く、ものづくりが盛んで教育熱心なまちです。福山市立大学はこの街全体をキャンパスとし、知の伝達・知の創造・知の発信を掲げ、地域社会の持続的発展を目指して教育研究を続けています。みなさんにとって、本学は学びのチャンスに満ちあふれている大学です。
2021年度学校基本調査(2021年12月22日現在)によると、わが国の大学数は803校にのぼります。内訳は、国立が86校、公立が98校、私立が619校です。数の上では、公立大学数が国立大学数を上回ってきたことがわかります。
歴史を遡ると、13世紀初頭イタリアのボローニャ、フランスのパリ、イングランドのオックスフォードに大学が誕生しました。ヨーロッパにおける大学設立の基礎には都市という地域社会の発展がありました。福山市立大学は、福山市の発展とともに生まれ育った大学であり、それは大学本来のあり方を体現しています。
ところで、大学とはいったい何でしょうか? 教育基本法第7条では、次のように謳われています。
「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」
今日からみなさんは、こうした大学の一員として、高い教養と専門的能力を培い、真理を探究し、社会の発展に寄与することになります。私たちはこの営みを学問と呼んでいます。
学問の「問」は、「問い」です。私は人生の大半を大学で過ごしてきました。はじめは学生として、その後は教員として。その間、私の問いは増え続けています。大学はどのような問いも、人間についての問いも社会についての問いも自然についての問いも、差別なく受け入れてくれるところです。
私は、子どもの発達について研究してきましたが、それに関わる問いを1つ紹介したいと思います。子どもの初語は生後11か月頃と言われています。初語というのは初めて発する言葉を指します。子どもが犬を見て「ワンワン」というのがそれにあたります。単語しか言わないので、一語発話などと名付けています。その後しばらく言葉の変化はほとんど見られません。そして、半年ほど経って年齢が1歳半頃「ワンワン イタ」というような二語発話が始まります。なぜでしょう?
あらかじめ正しい答えがあるわけではありません。一語発話から二語発話になったのは「親が教えてあげたから」というような答は誰でも考えつきますが、それは「ごはんをいっぱい食べたから」という答と同様に、「当たらずとも遠からず」としか言いようがありません。そもそも「なぜでしょう」などという問いかけがあいまいです。問いについて考えをめぐらすとき最初にしなければならないことは、問いそれ自体を洗練させることです。発達心理学では、発話だけを取り上げて一語発話と二語発話の違いだけを考えることで済まさず、それを発する子どもの発達全体の違いに目を向けます。すると、一語発話は犬が目の前にいるときに発せられること、二語発話は犬が目の前にいないときも発せられることわかってきます。またそこでは、「何がいたの」という質問に対して、「ワンワン イタ」と答える新しいコミュニケーションが始まっています。こうした事実を積み上げていくと、語数の違いという表面的な問いから、さらに広くて深い問いが広がっていきます。初語から半年間子どもの中でどのような変化が起こっているのか、もっと知りたくなっていきます。さらに、言語とは何かという問い、人間とは何かという問いが連なっていきます。このように問いを拡張できるところが大学です。
問いを増やして、人生ずっと大学で過ごせと言いたいわけではありません。言いたいのは、みなさん自身の問いを大切にしてほしいということです。大学で出会う人々と問いを共有してほしいということです。真理や正義についての判断を権威に委ねるのではなく、事実に基づき自分たちで追究する。それを学問の自由・大学の自治と呼んでいます。世界に目を向ければ、真理や正義についての判断を権力者に委ねることの危険性は明らかです。
みなさんは、福山市立大学の一員となりました。いままだ全国で新型コロナウイルスの感染が続いています。きょう入学したみなさんが一人残らず安全に学業を達成し、学生生活を全うできるよう、大学として力を尽くしますので、みなさんもいっしょに考え行動してください。本学教職員はもちろん先輩の学生たちも、新入生のみなさんを応援しています。
ご入学、おめでとうございます。
2022年(令和4年)4月4日
福山市立大学 学長 田丸 敏髙