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学長の式辞

2019年度 入学式式辞

(実施:2019年4月4日)

入学式式辞

 福山市立大学に入学された、教育学部102人と都市経営学部161人、教育学研究科6人と都市経営学研究科3人、計272人のみなさん、ご入学おめでとうございます。
また、これまでみなさんを支えてこられましたご家族はじめ関係者の方々に、お祝い申し上げます。
 本日はたいへんご多忙な中、福山市長 枝広直幹様、福山市議会議長 早川佳行様をはじめ、ご来賓の方々にご臨席を賜り、心より御礼申し上げます。

 福山市立大学は、2011年に全国で81番目の公立大学として誕生しました。そして、いま8年が経過し、今年も全国各地からみなさんをお迎えすることができました。

 2018年度文部科学省統計資料(この統計資料は毎年5月1日現在として公表されます)によると、わが国の大学は781校にのぼります。このうち、国立が86校、公立が92校、そして私立が603校です。学生数は、2,909,159人で、前年度より18,279 人増加しています。(公立大学在学生は155,520人で、大学全体の5.34%です。)大学進学率は49.7%で、短大や専門学校を含む高等教育機関進学率は81.5%となり過去最高ということです。

 歴史を遡ると、13世紀初頭イタリアのボローニャ、フランスのパリ、イングランドのオックスフォードに大学が誕生しました。ヨーロッパにおける大学設立の基礎には都市という地域社会の発展がありました。近年わが国では公立大学が急増し、学校数の上では国立を上回るようになりました。福山市立大学は、設置者である福山市の発展とともに生まれ育った大学であり、都市とともに大学が歩む姿は大学本来のあり方を示していると言えましょう。

 ところで、大学とはいったい何でしょうか? 教育基本法第7条では、次のように謳われています。「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」今日からみなさんは、こうした大学の一員となりました。みなさんは「高い教養と専門的能力」の習得を目指すことになりますが、これからの勉強は学力を競い合う受験勉強ではありません。真理を探究し、社会の発展に寄与するための勉強です。私たちはこれを学問と呼んでいます。

 大学は、学問の府です。では、学問とは何でしょうか? 学問の「問」は、「問い」です。みなさんは大学入学に際してどのような問いを抱いていますか? どのような問いでも、それを問い続けていく過程で広くて深い問いに至ります。たとえば、福山市の人口は何人でしょうか? インターネットで福山市のホームページを見れば、2019年2月末現在で469,258人ということが載っています。しかし、日々変動している人口はどのようにして確定されるのでしょうか? 福山市が市制を施行したのが1916年で、そのときの人口は32,356人と言われています。では、3万人あまりから47万人へ、どうして人口が増えたのでしょうか? また、人口増加にしても、右肩上がりし続けるわけではありません。その過程には戦争や被災などさまざまな苦難の歴史もありました。福山市は1984年に平和非核都市宣言をしていますが、それはなぜでしょうか? さらに、人口と地域の発展との間にはどのような関係があるのでしょうか? 問いは答えと同時に新たな問いを生み深化していきます。こうして次から次へと生まれる問いに対して、学術的な方法を持って答えようとするところに学問が生まれます。

 私はこれまで発達心理学の研究をしてきました。先日図書館で、『児童心理』という雑誌──2019.1特集号「子どもの秘密」──の中で、私たちが書いた論文、子どもの秘密と自我の発達(田丸敏高・井戸垣直美・志満津陽子、2000)が引用されているのを発見しました。そもそも「人に知られたくないから秘密なのに、そんな秘密を研究できるのだろうか」と疑問に思いませんか? その通りです。みなさんは「あなたの秘密は何ですか」と質問されて、「私の秘密は○○です」と答えますか? 少なくとも見知らぬ人から突然聞かれて正直に答えるわけはありません。
 研究には方法が必要となります。当時私たちは研究方法を開発するために創意工夫と試行錯誤を重ねていました。「秘密の研究」などどのようにしたらできるか、研究方法について聞きたいですか? しかし、大学ではそう簡単に答えを教えてくれません。あなたが十分教養を身につけ、真摯に学問と取り組む姿勢であるとわかったとき、大学はさまざまな研究方法を伝えてくれるところです。
 子どもにとって、秘密は隠したいと同時に言いたくてたまらないことであります。誰かに誕生日プレゼントを渡したいとき、渡す間際まで隠しておきたいと思いませんか?けれども一方で早くプレゼントをあげて相手に喜んでほしいでしょう。隠すことと打ち明けることとは対立し葛藤しています。つまり、秘密は、話したいことを一時的に抑制する能力、つまり自我の形成と結びつけて研究する必要があります。問いと答えを直結させるのではなく、問いと答えの関係を探る枠組みを定めていくところに学問らしさが現れます。そしてさらに、「子どもの秘密」の研究は、子どもの発達過程における「秘密」の意義や重要性を明らかにします。

 大学は教師と学生とが集まり自律的に運営するところから始まりました。いま大学は多様な研究者や市民に開かれ、発展しようとしています。本学は、知の伝達、知の創造、知の発信をミッションとしています。きょう本学に入学されたみなさん、みなさんは学生であると同時に、児童教育学や都市経営学の研究集団の一員です。問いが生まれ、多様な答えに至る道筋をいっしょに考えあう仲間です。みなさんがこれから学ぶ児童教育学や都市経営学は、地域の持続的発展に貢献する学問です。謙虚に学ぶと同時に、大胆な問いを育み、充実した大学生活を送ってください。

 以上、新入生のみなさんへの式辞といたします。

2019年(平成31年)4月4日
福山市立大学 学長 田丸 敏髙

学長の式辞

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